中嶋:ぼくは方位語や前置詞をまとめて「方位語」と呼んでいるんだ。なぜなら方位副詞や前置詞といっても、具体的な用法では素人には判定できない場合が多いし、そのほとんどが重なっているからだ。ところで方位語は英語の心だと言えるね。
Kenny:そうだね。確かに日常会話で、方位語は60%以上を占めていると言われてるよ。
中嶋: おもしろいことに、日本語にも方位語の発想があるんだ。「駆け上」「盛り下げる」「掛け下る」「読み上げる」「書き上げる」「盛り上げる」「立ち上げる」「蹴り返す」などの言葉がすぐ思い浮かぶよ。
Kenny: なるほど、「蹴り返す」はkick backだ。
中嶋: ところで日本語の「蹴る」は、英語の kick だとは誰もが知っている。人や犬を蹴ったり、あるいはドアやボールを蹴ったり、それだけで
kick を使いこなせると思い込んでいる。確かに kick は日本語の「蹴る」と一対一に意味が当てはまる。
Kenny: しかし英語の発想には、一概に「蹴る」だけですませることができない問題があるよ。
ボールを目の前にしている人に「蹴れ!」という場合、 Kick!だけでも意味が通じるけど、ボールが「急速離脱する」という状態を表すには、方位副詞
off をつけなければならないよ。これが英語の発想だよ。
Kick!
Kick off!
Kick the ball off!
Kick off the ball! |
中嶋:まさに off をつけると、そのボールが「急速離脱」する状態が目に見えるようだね。
Kenny:また、サッカーのゴールなど何かの「範囲内」に「蹴る」場合は、in を使うよ。まさに「蹴り込む」というわけだ。また単にボールを蹴るのではなく、何かを目がけて(ねらって)蹴る場合は、at
が必要となる。
Kick
the ball in!
ボールを蹴り込め |
Someone kicked
a ball at me.
誰かが私を目がけてボールを蹴った |
Cf. Someone kicked
me.
誰かが私を蹴った |
中嶋: そうそう。at は「一点」を表すので、「目がける」「ねらう」といった意味になるんだね。ネイティブの幼い子どもは、日常生活の中でさまざまな方位語を結びつけた表現を自然と身につけていくことになるんだね。
Kenny: ただね。忘れてならないのは、単に場所的な位置関係がさらに拡大することだよ。
中嶋: そう、メタフォー表現だね、Kenny、ちょっとそんな例をあげてくくれないかなぁ。
Kenny: いいよ。こんなのはどうかな?
He was kicked
upstairs at the age of 45.
彼は45歳で閑職に祭り上げられた |
They kicked
at the government's measure.
彼らは政府の処置に苦情を申し立てた |
We kicked
back 5% of the profit to the man.
わが社は、利益の5パーセントをその男に支払った |
If you go on like that, you
are going to be kicked out.
いつまでもそんなことをしていると、いまに首になるよ |
He was kicked
out of the club for immoral behavior.
彼はふしだらな振る舞いのなめに、クラブを追い出された |
中嶋: upstairs 「上の階」の意味だね。つまり実践の現場から外されたということだ。またkick
backは日本語にもなっていて、「利益の蹴り返し」、つまりリベートだね。
Kick out の out は「範囲外」という意味だから、「蹴られて範囲外」、つまり「追い出す」「蹴り出す」か、おもしろいね。またout
of 〜は「〜から蹴り出す」という意味だね。
でも大切なのは、このkick という動詞フレーズだけではないことだ。このことは他の動詞でも簡単に応用できる。すでに「子どもの頃よく耳にする命令」のところでとりあげた用例だが、ここにも方位語を使ったものが含まれている。
Put
on your pajamas!
(パジャマを「密着・継続」の状態に「あらしめる」)
パジャマをきなさい! |
Put
away your toys!
(おもちゃを「離脱状態」に「あらしめる」)
おもちゃを片づけなさい! |
Turn
off the TV!
(テレビを「急速離脱状態に」「(スイッチを)回す」)
テレビを消しなさい! |
Turn
on the TV!
(テレビを「密着・継続状態に」「(スイッチを)回す」)
テレビをつけなさい! |